複数の農業車両と走行軌跡を可視化するレポサク

01Reframe the Problem

現場を理解し、
プロダクトの前提を変える

シードスタートアップの一人目プロダクトデザイナーとして、現場調査からUX・UIまでを担当。車両のUSBに端末を挿すだけで、全員のデータが集まる体験を設計した。

Role
1st Designer / Lead Product Designer
Team
CEO / CTO / Engineers — 9-person seed startup
My Ownership
Research / Product Definition / UX・UI
Duration
2022–2025
無線連絡84%削減
作業効率18%向上
導入200社規模
GOOD DESIGN AWARD 2025 グッドデザイン金賞

※位置確認連絡と作業効率は、導入法人を対象とした第三者機関による導入効果検証

01 Field Research

現場に入り、課題を定義し直す

Context

レポサクが目指す屋外型完全自動農場には、現場全員の精密な行動データが必要である。しかし、農家さんから返ってきたのは「俺らはIT無理だから」という言葉だった。

当初、私たちは全員参加を阻む原因を、ITへの不慣れさにあると考えた。高齢者にも分かりやすいUIを作れば解決できるのではないか。しかし、その前提は正しいのか。確かめるために、自ら農作業を経験し、シニア向けスマホ教室で利用者の行動を観察した。

Research 1

農業を、自分の身体で理解する

近所の農家さんから畑を借り、2年間で14種類の野菜を育てた。しかし、ほとんどうまくいかなかった。土壌、天候、虫、害獣。無数の変数が重なり、失敗しても原因を特定できない。次に試せるのが一年後になることもある。

農家さんの「勘」は、簡単には再現できない複雑な判断の積み重ねだった。

Observed

  • 強い日差しで、画面の文字が読めない
  • 軍手や手汗で、細かな操作ができない
  • 繁忙期には、作業を止める余裕がない

Research 2

「使えない」が生まれる瞬間を見る

シニア向けスマホ教室でボランティアをし、デジタル操作につまずく場面を観察した。孫とテーマパークへ行くためにスマホ決済を覚えようとしていた女性は、失敗を重ねるうちに「私は頭が悪いから無理なのね」と話し、教室へ来なくなった。

使えない体験は、操作を妨げるだけでなく、「自分にはできない」という認識まで作っていた。

Insight

「ITが苦手」は原因ではない。

現場を前提にしない設計と、失敗体験の積み重ねによって生まれた結果だった。

02 Product Decisions

「シニアも使える」で終わらせない
誇りを持って使える体験を

Decision 1

画面が本当に必要かを問い、
プロダクト構造から操作を削る

高齢者にも分かりやすいUIを作るのではなく、利用開始までに必要な画面と操作そのものを減らした。

データを送る作業者は、車両のUSBに端末を挿すだけ。アプリのインストール、初期設定、計測開始の操作は必要ない。マップを見る人も、紙の会員証にあるQRコードを読み取るだけでアクセスできる。サインアップやID・パスワードを求めず、圃場の事前登録がなくても基本機能を利用できる。

操作を覚えてもらうのではなく、操作をしなくても参加できる仕組みにした。

車両のUSBに接続されたレポサク端末
車両のUSBに端末を挿せば位置情報が自動で送られる
レポサクのキービジュアル

Decision 2

使いたくなる理由をつくる

操作の負担をなくし、「誰でも使える」だけでは全員参加は達成できない。自ら使いたくなる理由が必要だった。

シニア向けスマホ教室では、スマートフォンを苦手としている人でも、スマホゲームは楽しんでいた。また農家さんの間には、新しい車両やシステムを「かっこいいだろ」と見せ合う文化があった。

そこで、現実の車両とリアルタイムに同期するマップを、動きを眺めること自体が楽しく、思わず人に見せたくなる体験へ設計した。

結果、農家さん自身が近隣の人にレポサクを自慢してくれるようになり、「何それ、かっこいい」と口コミが広がり、導入が拡大した。

農作業車両の走行軌跡を表示したレポサクのライブマップ画面

03 Impact

「俺らはIT無理だから」が、
「これ、かっこいいだろ」に

この変化は、プロダクトへの印象だけにとどまらなかった。現場の働き方も変化した。

Teamwork

牧草の収穫では、刈る、集める、運ぶ、踏み固める。役割の異なる複数の車両が、前の作業を引き継ぎながら動く。

以前は、親方が「今どこ?」「どこまで終わった?」と無線や電話で確認し、一台ずつ指示していた。

導入後は、全員がマップで現在位置と進捗を共有する。作業者自身が遅れに気づき、別の車両がサポートへ向かうようになった。高精度に記録されたベテランの走行軌跡は、若手が走り方を学ぶ教材にもなった。

親方が指示するチームから、全員が状況を見て動くチームへ変わった。

Operational Impact

  • 車両の位置確認に使われていた無線連絡を84%削減
  • 作業効率を18%向上
  • 事務作業を58%削減
  • ベテランの軌跡を、若手の学習や作業相談に活用

Business Impact

  • 全国200社規模、農協24組合へ導入
  • 除雪、配送、クマ対策など、農業以外の11自治体へ展開
農林水産技術会議会長賞 デジタル田園都市国家構想 CEATEC AWARD イチBizアワード2023 最優秀賞

2025年度グッドデザイン金賞・ベスト100

審査対象5,225件の中から、グッドデザイン・ベスト100、さらに金賞19件の一つに選出された。

「農家の尊厳を大切にしつつ、畑で働くすべての人々の努力から美を生み出している。」

Hong Khai Seng デザインディレクター グッドデザイン賞2025「私の選んだ一品」

徹底的にユーザーに寄り添ったサービス設計哲学が高く評価された。現場の多様なニーズや利用者層を深く観察し、高齢者や経験の浅い利用者でも直感的に扱える操作環境や細やかな安全配慮、リアルな課題への対応策が随所に盛り込まれている。

審査員評価

グッドデザイン賞 ↗

グッドデザイン賞最終審査のプレゼン